ベル-エバンス-ポランニー則

物理化学において、ベル-エバンス-ポランニー則 (ベル-エバンス-ポランニーそく、: Bell-Evans–Polanyi principle)とは、同種類の異なる2つの反応の活性化エネルギー差が反応エンタルピー(英語版)差に比例するという関係のこと。

エバンス-ポランニー則 (: Evans–Polanyi principle)、ブレンステッド-エバンス-ポランニー則 (: Brønsted–Evans–Polanyi principle) とも。また頭文字をとってBEP則とも。

概要

エバンス-ポランニー則の関係式は以下の通りである。

E a = E 0 + α Δ H {\displaystyle E_{a}=E_{0}+\alpha \Delta H}
  • E a {\displaystyle E_{a}} : 同種類の参照となる反応の活性化エネルギー
  • Δ H {\displaystyle \Delta H} : 反応エンタルピー(英語版)の差
  • α {\displaystyle \alpha } : 反応座標上の遷移状態の位置を特徴づけるパラメータ ( 0 α 1 {\displaystyle 0\leq \alpha \leq 1} )

エバンス-ポランニーのモデルは、同種の反応について活性化エネルギーを効果的に推算できる自由エネルギー関係の一つである。活性化エネルギーが分かればアレニウスの式を適用して反応速度定数を算出できる。

エバンス-ポランニーのモデルでは、アレニウスの式における頻度因子(英語版)および反応座標上の遷移状態の位置が、全ての類似反応において不変であると仮定している。

導出

ベル-エバンス-ポランニー則は、ブレンステッドの触媒法則(英語版)により表された見かけ上の活性化エネルギー自由エネルギーの線型関係を説明するために、ロナルド・パーシー・ベル(英語版)[1]と、メレディス・グウィン・エバンス(英語版)およびマイケル・ポランニー[2]によってそれぞれ独立に開発された。 このブレンステッドの触媒法則は1924年にヨハンス・ブレンステッドにより発表されていた[3]

以下のような反応を考える。

A B + C A + B C {\displaystyle \mathrm {AB} +\mathrm {C} \rightarrow \mathrm {A} +\mathrm {BC} }

反応系には、AB間の距離 r A B {\displaystyle r_{AB}} とBC間の距離 r B C {\displaystyle r_{BC}} の2つの自由度があるとする。

AC間の距離は次式のように一定であると仮定する。

r A B + r B C = c o n s t . {\displaystyle r_{AB}+r_{BC}=\mathrm {const.} }

AB結合が伸びていくと、系のエネルギーは遷移状態に至るまで増加していき、AB結合が切れる。 そして、BC間に結合が形成されるにつれ、エネルギーが下がっていく。 エバンスとポランニーは、反応物、遷移状態、生成物の関係を表す2つのエネルギー関数を、遷移状態で交差する2つの直線 (各々 m 1 {\displaystyle m_{1}} m 2 {\displaystyle m_{2}} の傾きを持つ) によって近似した。

AB分子のエネルギーは、結合長 r ( r A B ) {\displaystyle r(\equiv r_{AB})} の関数として次のように与えられる。

E A B ( r ) = m 1 ( r r 1 ) {\displaystyle E_{AB}(r)=m_{1}(r-r_{1})}
(1)

遷移状態において、 r = r {\displaystyle r=r^{\ddagger }} E = E a {\displaystyle E=E_{a}} を満たすことから、

E a = m 1 ( r r 1 ) {\displaystyle E_{a}=m_{1}(r^{\ddagger }-r_{1})}
(2)

を得る。これを変形して、

r = E a m 1 + r 1 {\displaystyle r^{\ddagger }={\frac {E_{a}}{m_{1}}}+r_{1}}
(3)

となる。 BC分子についても同様に

E B C ( r ) = m 2 ( r r ) + E a {\displaystyle E_{BC}(r)=m_{2}(r-r^{\ddagger })+E_{a}}
(4)

となる。 反応全体のエンタルピー変化 Δ H {\displaystyle \Delta H}

Δ H = m 2 ( r 2 r ) + E a {\displaystyle \Delta H=m_{2}(r_{2}-r^{\ddagger })+E_{a}}
(5)

と表せる。 式(3)を式(5)へ代入して整理すると最終的に

E a = m 1 m 1 m 2 [ Δ H m 2 ( r 2 r 1 ) ] {\displaystyle E_{a}={\frac {m_{1}}{m_{1}-m_{2}}}[\Delta H-m_{2}(r_{2}-r_{1})]}
(6)

を得る。 式(6)中の係数は上述のエバンス-ポランニー式における共通のパラメータ α {\displaystyle \alpha } に押し込めることができる。

関連項目

出典

  1. ^ Bell, R. P., Proc. R. Soc. London, Ser. A, 1936, 154, 414
  2. ^ Evans, M. G.; Polanyi, M., J. Chem. Soc., Faraday Trans., 1936, 32, 1340
  3. ^ Brønsted, J. N.; Pedersen, K. J. Zeitschrift für Phys. Chemie, Stöchiometrie und Verwandtschaftslehre 1924, 108, 185–235

参考文献

  • Advanced Organic chemistry (part A: Structure and Mechanisms) FRANCIS A. CAREY
  • Dill, Ken A., and Sarina Bromberg. Molecular Driving Forces. 2nd ed. New York: Garland Science, 2011.
  • Vinu, R. and Broadbelt, L.J. "Unraveling reaction pathways and specifying reaction kinetics for complex systems," Annu. Rev. Chem. Biomol. Eng. 2012, 3, 29-54


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